ある男の手記 9/4

たとえば、精神科に行くきっかけなんてものは、やはり憂鬱症(うつ病)であるケースが現在でも多いのだろう。なんらかの事情で抑うつ状態になり、眠れない、だるい、焦燥感に駆られる、とかいうふうに社会生活を非常に送りづらい状態にまでなったとき、精神科…

ある男の手記 8/21

音楽とは自由のことである、と俺は思った。だけどまたそれも、微妙に違うようだ。いや、違いは些細な程度ではすまされないだろう。 確かに音楽は自由を「志向」する。自由でありたい、より自由であろうとする態度が、音楽を制作し、音楽を享受し、音楽そのも…

体重日記

ある男の手記。その中には、時折、"体重日記"というものが並行して余白に書かれている。その日記の書き手は、手記の書き手(ある男)と同一視してよかろうとも思われるのだが、"体重日記"と並列して書かれた地の文章では、あくまで別の人物が書いた文章から引…

ある男の手記 23/7/16 大学の条件

日本の四年生大学に入学したら、最短でも200万は払うわけだ。大学で何をするかといったら、基本的には授業を受けて、必要とされる単位を揃えることである。サークル・部活動、生活費を賄うためのアルバイト、友人関係に色恋と様々であるが、基本的に学業が中…

承認欲求の上昇志向

自分の過去(半年以上前)のtweetを見ながら、承認欲求のえげつなさをひしひしと感じ、驚き慌てめくほど。承認欲求はとどまることを知らない。いいねの数が30あたりで安定してくると、それより下回るものをどこか気にしてしまう。くよくよする。昔は10でも嬉し…

経済=力について 覚書き

経済力とは人口に膾炙した物言いだが、要するにability、能力のことだろう。生活資金を稼ぐ人としての(求められる)能力。あるいはその力能、適正。 Power of Economyという意味での"経済力"があってもいいのではないだろうかなどと思う(まァ普通にあるんだろ…

トラウマ履歴をくだってゆけ——大失敗の記録

■トラウマ履歴をくだってゆけ——大失敗の記録 僕のトラウマ形成に関わった大きな出来事のひとつは、大学に入ってから入部した「ロックンロール部」である(もちろん仮名)。これを「大失敗」の経験と呼びたい。ロックンロール部でのすべての出来事は、この「大…

心のリハビリテーション

心のリハビリテーション——まずは2015-19の記憶健忘 五年間ほどのことをうまく思い出せない。具体的には2010年代の後半。 自分のリハビリとして、どうもうまく思い出せないとある過去五年間のことを少しでもいいから自分で思い出してみる、ということを、あく…

ある男の手記2

僕は激情的な音楽にどうしても惹かれてしまう。ベートーヴェンなども勿論大好きだけど、激情的というのは、静と動の振れが極端だということだ。それはどういうことかというと、静が要請される場面において完璧に〈静〉を演出すること、反対に動が要請される…

Twitterに1000字でも書けようものなら……ある男の手記23/5/23

* なんというか。僕はもう没落していくのだろう。俺はと言いたくなる。俺はこのまま没落していくのだ。金銭的な没落といわず、肉体的な没落といわず、とりもなおさず人間の形態として没落するのだ。否-人間への降下だ。俺は灰になるのだ! 煙草をふかす人間…

Coldplayの実存主義――前期論

Coldplayの実存主義 ■ものいわさぬ彼ら Coldplay(以下、コールドプレイと表記するときもある)は2020年になっても現代のUKロックを代表するビッグ・バンドである。 その始まり、デビューアルバム『Parachutes』は2000年にリリースされた。2000年というの…

さか島(戯曲)①

さか島(戯曲) misty 登場人物; ヴィクトル(男、30代くらい) リザヴェータ(女、ヴィクトルと同年代) ヘモン(老人の姿をした先の神、哲学教師的) 大蛇 堕天使 悪魔 ・五幕構成(予定) 第一幕 荒れ果てた大地。土は灰色がかっていて、枯れ果てた背…

マゾヒズム・契約・儀式①

■はじめに 以下はドゥルーズ『ザッヘル=マゾッホ紹介』(河出文庫、堀訳、2018)を部分的に読んでまとめた文章である。「マゾッホの小説的要素」―「法、ユーモア、アイロニー」―「契約から儀式へ」という三節である。 ザッヘル=マゾッホ紹介 冷淡なものと…

批判哲学と歴史哲学について

■はじめに 以下は、三木清の大学の卒業論文である「批判哲学と歴史哲学」という単行本で80頁ほどの文章を読んで、雑感をまとめたものである。三木清全集第2巻『史的観念論の諸問題』に所収されている。正直難しい論文である。80頁であるがゆえに、凝縮…

神の回帰、あらゆるものが崩壊する時代に②

20世紀の文化人類学者のレヴィ=ストロースは主著の一つである『悲しき熱帯』においてこんなことを書きつけている。曰く、「世界は人間なしにはじまったし、人間なしで終わるだろう。」この言葉ほど重いものはない。脱人間中心主義的な現代の思想の予見であ…

神の回帰、あらゆるものが崩壊する時代に(エッセイ)

■神の回帰、あらゆるものが崩壊する時代に 「神は死んだ」というニーチェの箴言は、キリスト教の文化を地盤としたヨーロッパ大陸諸国にとってこそショックだった。日本は西洋ではないし、現代にいたっては無宗教の人々が一番多く、せいぜい「神は死んだ」と…

ダス・マンの宇宙(4)

ダス・マンの宇宙(3)はこちら↓ hh26018823.hatenablog.com *** ……今や白井青年は一種の勇気と好奇心を持って形象《宇宙クウカン》——と彼が名称の認諾を成し遂げたのだ! このことについてはまた後述されるだろう——の白い通路を進んでいった。どれほど…

ダス・マンの宇宙(3)

ダス・マンの宇宙(1)はこちら↓ hh26018823.hatenablog.com ダス・マンの宇宙(2)はこちら↓ hh26018823.hatenablog.com (3) * ダス・ハワイアンはとりあえず進んでいった。すると、おもむろに通路自体が右へと向き始めた。通路の構造が一瞬のうちに…

ダス・マンの宇宙(2)

ダス・マンの宇宙 最初はこちら↓ hh26018823.hatenablog.com **** (2) そもそも私たちの白井サエンは「昨日」よりも遥かに大事で危険なものを喪失していた、そのことに彼はまだ気付いてもいなかった。そう、私たちが《白井サエン》と一方的に彼のこと…

ダス・マンの宇宙1(小説)

前回の記事であげた創作文章の続きは、全然書けていません。書いてはいるけどまだ掲載できるような状態では全然ないので、その前に前から温めていたネタで中篇小説の予定のものをかきはじめたので、載せます。 文章がちょっとくどいですが、なるべく長すぎな…

合法ハーブを求めて(創作)

Day 0 僕は何かを書きたい、いやそもそも書くためにボールペンを取ったのだがすぐに健忘症的忘却的失念的無念が顔を覗かせる。そもそも僕はイマココを軸とする前後の記憶を持っていないのかもしれない。それらの記憶の非ーインストール。(ヒインストールと…

Radiohead論、あるいは《事件》論

Radioheadの転換点であり大作である2000年リリースの「KID A」と、KID Aのリリースから8か月後に発表された5枚目の「Amnesiac」(以下、アムニージアック)の関係性を、フロントマンであるトム・ヨークは次のように述べていたことを思い出す。いわく、KID A…

切っ先を突きつけろ(小説)

切っ先を突き付けろ(15枚) misty 俺はまず、自分の眼前に刃が突き立てられている状況を自分の精いっぱいの想像力で再現した。なぜなら俺はあきれるほどに弱く、死の「存在」というものにつねに怯えきっているからだ。俺は死ぬことが怖い。自分が死ぬイメー…

4月を振り返って(シビアめな日記)

5月からは元号新しく「令和」になるという(実際なるのだが)。だが、世間のことはひたすら僕から遠いようだ。遠くて、しかし確実にねっとりとした手段で僕の生活や労働を脅かしてくるもの、感覚や僕の知性に対してしばしば一方的な暴力をふりかざしてくる…

時間喰いのモービーディック(小説)

時間喰いのモービーディック misty 二一〇一年、僕の中で世界中の街は海水に浸されていた。僕の予想だが、おそらく二十一世紀の何十年間で破壊され続けた地球環境が海水面の上昇をもたらし、その一方で人々は電脳空間のみに増々のめり込むことになった。いわ…

フェミニズムと〈政治〉

1、フェミニズムとは何か 「フェミニズム」を端的に説明しているものとして、たとえばちくま新書の大越愛子さんの入門書『フェミニズム入門』の冒頭ではこう書いてある。 「……とりあえずここでは、フェミニズムを「女性の自由・平等・人権を求める思想」と…

夢の中で死んだ鳥は現実(完結)

以前ストップしていた「夢の中で死んだ鳥は現実」という小説をいちおう最後まで書き上げました。6000字、原稿用紙だと15枚ですね。 どこからが続きか分からないので、改めて全文載せます。書いたばかりなので表記や誤植があると思います。 夢の中で死んだ鳥…

感情論と第一の帰結——サルトル『存在と無Ⅱ』

hh26018823.hatenablog.com ↑前回記事 今回は、サルトルの「他者論」——それを即自〔無〕、対自〔意識〕と議論をすすめて「対他—存在」として議論する——の中から、比較的分かりやすかった感情論と、他者論の第一の帰結について説明する。今回は分かりやすいと…

サルトル『存在と無』第二巻より

ずっと以前から、ジャン=ポール・サルトルの『存在と無』を読んでいる。『存在と無』の邦訳はサルトル全集のほか、今僕が読んでいるちくま学芸文庫版で3巻に渡ってある。訳者はどちらも同じ松浪信二郎さんである。 存在と無―現象学的存在論の試み〈2〉 (ち…

In rhythm(散文詩)

昔書いた、アフォリズム形式の文章を発表します。長いです。 In ryhthm 序 薄暗い窓の、緑色のカアテンからのぞかれた眠気のある朝日が、此処に届いた。とにかく眠たかったが、その朝日の、普段は見せぬ橙色の優しさとでもいったものに、ひどく惹かれてしま…