2019-01-01から1年間の記事一覧

神の回帰、あらゆるものが崩壊する時代に②

20世紀の文化人類学者のレヴィ=ストロースは主著の一つである『悲しき熱帯』においてこんなことを書きつけている。曰く、「世界は人間なしにはじまったし、人間なしで終わるだろう。」この言葉ほど重いものはない。脱人間中心主義的な現代の思想の予見であ…

神の回帰、あらゆるものが崩壊する時代に(エッセイ)

■神の回帰、あらゆるものが崩壊する時代に 「神は死んだ」というニーチェの箴言は、キリスト教の文化を地盤としたヨーロッパ大陸諸国にとってこそショックだった。日本は西洋ではないし、現代にいたっては無宗教の人々が一番多く、せいぜい「神は死んだ」と…

ダス・マンの宇宙(4)

ダス・マンの宇宙(3)はこちら↓ hh26018823.hatenablog.com *** ……今や白井青年は一種の勇気と好奇心を持って形象《宇宙クウカン》——と彼が名称の認諾を成し遂げたのだ! このことについてはまた後述されるだろう——の白い通路を進んでいった。どれほど…

ダス・マンの宇宙(3)

ダス・マンの宇宙(1)はこちら↓ hh26018823.hatenablog.com ダス・マンの宇宙(2)はこちら↓ hh26018823.hatenablog.com (3) * ダス・ハワイアンはとりあえず進んでいった。すると、おもむろに通路自体が右へと向き始めた。通路の構造が一瞬のうちに…

ダス・マンの宇宙(2)

ダス・マンの宇宙 最初はこちら↓ hh26018823.hatenablog.com **** (2) そもそも私たちの白井サエンは「昨日」よりも遥かに大事で危険なものを喪失していた、そのことに彼はまだ気付いてもいなかった。そう、私たちが《白井サエン》と一方的に彼のこと…

ダス・マンの宇宙1(小説)

前回の記事であげた創作文章の続きは、全然書けていません。書いてはいるけどまだ掲載できるような状態では全然ないので、その前に前から温めていたネタで中篇小説の予定のものをかきはじめたので、載せます。 文章がちょっとくどいですが、なるべく長すぎな…

合法ハーブを求めて(創作)

Day 0 僕は何かを書きたい、いやそもそも書くためにボールペンを取ったのだがすぐに健忘症的忘却的失念的無念が顔を覗かせる。そもそも僕はイマココを軸とする前後の記憶を持っていないのかもしれない。それらの記憶の非ーインストール。(ヒインストールと…

Radiohead論、あるいは《事件》論

Radioheadの転換点であり大作である2000年リリースの「KID A」と、KID Aのリリースから8か月後に発表された5枚目の「Amnesiac」(以下、アムニージアック)の関係性を、フロントマンであるトム・ヨークは次のように述べていたことを思い出す。いわく、KID A…

切っ先を突きつけろ(小説)

切っ先を突き付けろ(15枚) misty 俺はまず、自分の眼前に刃が突き立てられている状況を自分の精いっぱいの想像力で再現した。なぜなら俺はあきれるほどに弱く、死の「存在」というものにつねに怯えきっているからだ。俺は死ぬことが怖い。自分が死ぬイメー…

4月を振り返って(シビアめな日記)

5月からは元号新しく「令和」になるという(実際なるのだが)。だが、世間のことはひたすら僕から遠いようだ。遠くて、しかし確実にねっとりとした手段で僕の生活や労働を脅かしてくるもの、感覚や僕の知性に対してしばしば一方的な暴力をふりかざしてくる…

時間喰いのモービーディック(小説)

時間喰いのモービーディック misty 二一〇一年、僕の中で世界中の街は海水に浸されていた。僕の予想だが、おそらく二十一世紀の何十年間で破壊され続けた地球環境が海水面の上昇をもたらし、その一方で人々は電脳空間のみに増々のめり込むことになった。いわ…

フェミニズムと〈政治〉

1、フェミニズムとは何か 「フェミニズム」を端的に説明しているものとして、たとえばちくま新書の大越愛子さんの入門書『フェミニズム入門』の冒頭ではこう書いてある。 「……とりあえずここでは、フェミニズムを「女性の自由・平等・人権を求める思想」と…

夢の中で死んだ鳥は現実(完結)

以前ストップしていた「夢の中で死んだ鳥は現実」という小説をいちおう最後まで書き上げました。6000字、原稿用紙だと15枚ですね。 どこからが続きか分からないので、改めて全文載せます。書いたばかりなので表記や誤植があると思います。 夢の中で死んだ鳥…

感情論と第一の帰結——サルトル『存在と無Ⅱ』

hh26018823.hatenablog.com ↑前回記事 今回は、サルトルの「他者論」——それを即自〔無〕、対自〔意識〕と議論をすすめて「対他—存在」として議論する——の中から、比較的分かりやすかった感情論と、他者論の第一の帰結について説明する。今回は分かりやすいと…

サルトル『存在と無』第二巻より

ずっと以前から、ジャン=ポール・サルトルの『存在と無』を読んでいる。『存在と無』の邦訳はサルトル全集のほか、今僕が読んでいるちくま学芸文庫版で3巻に渡ってある。訳者はどちらも同じ松浪信二郎さんである。 存在と無―現象学的存在論の試み〈2〉 (ち…

In rhythm(散文詩)

昔書いた、アフォリズム形式の文章を発表します。長いです。 In ryhthm 序 薄暗い窓の、緑色のカアテンからのぞかれた眠気のある朝日が、此処に届いた。とにかく眠たかったが、その朝日の、普段は見せぬ橙色の優しさとでもいったものに、ひどく惹かれてしま…

デリダ案内

ジャック・デリダについての僕なりの紹介、というか邦訳されている著作で、これがとっつきやすいとかこれは面白かったとかいう与太話である。デリダはアホほど著作が多く、邦訳もいっぱいあるので、どれを手に取っていいか分からない向きもあると思う。 はじ…

私とラテンアメリカ文学

ツイートしようと思ったけど長くなるのでやめた。 「私とラテンアメリカ文学」といっても、僕はたかだか3年、4年くらいしか読んでいないし、まだ読んでいない無数に近い作家の作品を残している。それは幸せなことだ。僕のラテンアメリカ文学との出会いはバル…

想像力を掻きたてる時1(小説)

想像力を掻きたてる時 1 出発点としてSはハンバーガーショップの座席に座っていた。それほど人は多くない。時刻は夜八時を回ったあたりだろうか。Sは一人で四人分の座席を陣取り(それだけの人数的余裕はあったからそのことでSに対する非難の言われはな…

ミクロ政治学的探求(3)——奴隷の時代(続)

前回(2)の記事↓ hh26018823.hatenablog.com ■ニーチェの批判 ニーチェは「奴隷」という存在に対してまったく「同情」をしない。ニーチェにとって同情心は唾棄すべきものであるのだが、その論点は省くとしても、ニーチェは奴隷存在をすさまじく批判する。…

ミクロ政治学的探求(2)——奴隷の時代

(1)の記事は以下 hh26018823.hatenablog.com ミクロ政治学的探求(2) ■資本主義とオートポイエーシス 現代は奴隷の時代である、ということを命題として検証してみたい。現代は奴隷である、と言うとき、それは人間みなが奴隷に「成り下がっている」とい…

新現代思想入門(1)——2000年代の西洋思想

「現代思想」。その言葉は、基本的には1950~1999年あたりのフランス現代思想を中心的には指す。構造主義の「4人組」、レヴィ=ストロース、ラカン、フーコー、ロラン・バルト。ポスト構造主義の三人組、デリダ・ドゥルーズ・(フーコー)、現象学のミシェ…

ニーチェ『曙光』から考える(1)

ニーチェのアフォリズム形式の文章が連なる『曙光』はニーチェの中期の作品である。この前に、『人間的な、あまりに人間的な』という2巻にわたる長大なアフォリズムの書物を出版しているのだが、生前で刊行されたニーチェの本の中でも『人間的な』は一番評…

文学の危機——日本の言説状況について

■はじめに総括 下の欄では、思想界隈、批評界隈、文学界隈で出てくる著名人の名前で僕が関心がある人の状況を個人的に連ねているのだが、まぁみんなどっこいどっこい。特に現代思想は今オモシロクなっているので、これからも需要がある限りは本屋にも配架さ…