デリダ案内

ジャック・デリダについての僕なりの紹介、というか邦訳されている著作で、これがとっつきやすいとかこれは面白かったとかいう与太話である。デリダはアホほど著作が多く、邦訳もいっぱいあるので、どれを手に取っていいか分からない向きもあると思う。

 

 はじめに、デリダに触れるきっかけとしては、入門書であるが、入門書はたくさん出ている。しかし、大体高いレヴェルのものが多い(中級者向けというか) ここは腹をくくって、以下のような本はどうだろうか。

 

声と現象 (ちくま学芸文庫)

声と現象 (ちくま学芸文庫)

 
デリダ―なぜ「脱‐構築」は正義なのか (シリーズ・哲学のエッセンス)

デリダ―なぜ「脱‐構築」は正義なのか (シリーズ・哲学のエッセンス)

 

 

 シリーズ哲学のエッセンスの本は新品では入手できないかもしれないが、最も平易かつコンパクトにデリダのキー概念が分かるようになっている。「差延」「脱構築」など。そして『声と現象』はデリダの著作の中で一番入りやすくかつ重要な著作である。「自分の声を自分で聞く」という身体器官をへだてたこの行為がいかに変なもの(?)であるか、複雑に論じたデリダの重要著作である。

 

 デリダ初期の『エクリチュールと差異』などが結局デリダの代表作となっている。『エクリチュールと差異』、『グラマトロジーについて』、『散種』などだ。オススメしたいのは値が張るが(文庫化してほしい)、『散種』という四つの論考を集めた初期代表作である。

 

散種 (叢書・ウニベルシタス)

散種 (叢書・ウニベルシタス)

 

 

 僕はこの4つの論文の中でも「書物外」と「散種」というやつに感銘を受けた。「書物外」というのは、書物の本文(本丸)以外のテクストのことで、序文などがそれにあたる。「序文をいかによめばいいか?」持ち出されるのはたとえばヘーゲルの『精神現象学』の長い序文である。序文は最後に書かれたものであるという、この序文がいかにその書物を構成しているか……デリダは「外部」という概念にことさら注意を促す書き手である。そのうえで参考になるのが、以下の著作である。

 

絵画における真理〈上〉 (叢書・ウニベルシタス)

絵画における真理〈上〉 (叢書・ウニベルシタス)

 

 「上」だけでも別にいい。この中の第二章で、デリダはひたすら額縁のことを語っている。額縁が作品を作品たらしめる、額縁によってたとえば美術館などで絵画は誇りある絵画として空間を成立させる、というような話を複雑に展開していく。さっきの「書物外」と基本構図が似ている。

 

その他には、これも値がはるが、デリダの講義録はとてもいい。平易な語り口になっているし、デリダの授業の様子が手に取るように伝わってくる。この人、授業中からわけのわからないことを口走っているんだ……と。

 

獣と主権者I (ジャック・デリダ講義録)

獣と主権者I (ジャック・デリダ講義録)

 

 講義録『獣と主権者』のうち僕が読了したのは1の方だけであるが、一方に文学・哲学史のうえで出てくる動物(ラ・フォンテーヌの寓話など)が、逆説的にも至高性=主権をまとって出現するという不思議な話を1年の講義を通して展開している。

 

 そのほか、デリダの著作の中でオススメは政治哲学系の本で、

 

友愛のポリティックス I

友愛のポリティックス I

 

 

『友愛のポリティクス』(これも1、2とある)は格式高く、デリダの政治哲学の代表作だと思う。「おおわが友よ、友が一人もいない!」という格言を繰り返して、「友愛」の精神を政治哲学と結び付けて語る。ハイデガー論が最終的な締めくくりだ。

 

以上、駆け足でデリダのぼうだいな著作のうちのいくつかを紹介したが、文庫ではやはり『声と現象』が初期の重要著作が手軽に読めるものとして一番オススメである。